FLOWER397.梅
ミステリH 16
「どこまで行きましょう」
「観覧車乗りたいんです」
「えっ、観覧車ですか」
「はい」
「市内にもありますけどね」
「乗ったことあるので、初めての場所がいいんです」
「観覧車?」
名鉄線山王駅の付近だった
女性のお客様を乗車させた
黄昏染まる朱の空が鮮やかで、その人の羽織る緑のロングコートは色彩を烈に放っていて、人物の存在を一層際立たせていた
長い睫毛が印象的な女性で、気高さを漂わせるバッグを手にしていた
正確に判別できる博識に欠けていて推測の域を出なかったが、クロコダイルだろうか?
彼女の要望に応えるため、幾つか候補地の固有名詞を上げて意見を交わした
刈谷にある観覧車を行く先として決定した
其処は伊勢湾岸道のパーキングエリアで、一般道からも利用できるドライブスポットだった
「では向かいますね」
「はい、お願いします」
「お客様どちらから来られたのですか」
「三重県です。津市なんです」
「そうですか」
「ええ、たまに名古屋まで遊びに来るんです。気が向いたらですけど」
「そうですか、一時間くらいですか」
「はい」
「観覧車、好きなんですか」
「ええ、愛知も観覧車多いでしょう」
「そうみたいですね。さっき調べたら13ヶ所でしたね。いやー地元なのにそんなに沢山、知らなかったなあ」
「気に掛けること、普通ないですよね」
「あはは、そうですね」
「観覧車が好きと言うよりは風景が好きなんです。当然ですけど眺めが違うでしょ。だから一度乗ったことのある観覧車ではなくて初めての観覧車に乗る。愛知県制覇してみようと思って」
「いいですね。三重県にもありますよね。観覧車」
「そうね、有名なテーマパークもあるし」
「ああ、ナガシマに」
「乗ったことないの」
2人で相談して目的地を決めたから妙な紐帯が生まれたのだろうか、思いの外会話が弾んだ
およそ35分のドライブはあっという間だった
駐車場の一枠に車両を駐車して5,000円を受け取った
お釣りを用意している最中で、
「楽しかったです。ありがとうございます」
その人は右手を私の腕に当てて釣銭の行く宛を阻んだ
「ありがとうございます」
しばらく微笑みを交わして、
「一緒に乗りませんか。観覧車」
嬉しかった
「流石に仕事中なので、すいません。ありがとうございます」
「そうですよね。ごめんなさい」
「いえ。またの機会でしたら」
「はい」
連絡先を交換した
コルクという名だった
彼女の後姿を見送った
梅が、紅梅色の梅の花が咲いていて、その趣きを通り過ぎる深緑の外套と鼠色の鰐鞄の風景は、思いのほか溶合いの塩梅だった
HAMIRU
ハミル
コルク
ミステリH
20250211
flower399オダマキ
ミステリH17

タクシーに乗せたお客様のコルクさん
観覧車が好きな人だった
数種類の色味を帯びたマスカラと、御顔の面の割に歯が大きくてそのホワイトに視線を惹かれた
市内にある娯楽と言うか、複合エンターテイメントと銘打った大型の施設に来ていた
其処はダーツやビリヤードにカラオケ、ボウリングといった遊びは一通り網羅されていて、フリータイムや時間に応じた入場料を支払えば数多に及ぶアソビが楽しめるコースが人気の遊戯場だった
若者も多いし、子供連れの家族や、恋人でも楽しめる国内でもメジャーな娯楽施設だった
俺は卓球台の前にいた
当然、声を掛けてくれたコルクさんがいる
コルクさんは俺の右側にいて、左手を向くと友人のトシミがいた
トシミは相変わらず明るい色のパーマを遊ばせていて、精悍な顔つきはどことなく獣を思わせた
俺たちは三角形で向き合っていた
「すいません。今日は。急にお声掛けしてしまって」
「いえ、嬉しいです。こっちは友達のトシミです」
「宜しくお願いします。トシミです」
「宜しくお願いします。コルクです」
形式的な挨拶を済まして、謎解きのジャブを放つ
「コルクさん、どうして卓球なんですか」
「ええ、実は私あの、卓球クラブに入っていまして。テーブルテニスHっていうクラブなんですけど。ちょっと今、人が抜けてしまっていて」
ほう、人が足りない?
「大会に出場するために人が足りないんです。私達の愛地県花美留市では男女3人ずつ選手がいないと大会にエントリーできないんです」
コルクの話では、花美留市では、
1番手と4番手が男性のシングルで、
2番手と5番手が女性シングル
3番手が男女混合ダブルス
これがルールで男女3名ずつの選手がいることが大会の参加資格だった
「男性が2名足りていないんです」
察し力の乏しい俺の脳味噌がピンポンと謎を解いた。
スカウトか
「それで、」
もう分かっている
「お2人がもし興味があるようでしたら」
皆まで申すな
「チームに加わってもらえると嬉しいです」
ピンポンと快音スマッシュが謎を解いた事とは裏腹に、心ではこの勧誘サーブをどうレシーブしようか思索し始めた
注意深く球筋を見極めないと、彼女の回転サーブに対応できず明後日の回答をしてしまいそうだ
俺は卓球が苦手、なぜなら

「僕はいいですよ」
えっ、
「僕は中学卓球部だったんです」
トシミ。そうなの?
彼とは友人と言っても、クリスマス前の擦った揉んだで関係が始まったもんで、2ヶ月程度の付合いだった
「結構真剣にやってたんで。県大会も出たことがあるし」
「本当ですか。嬉しい!ありがとうございます」
なんか盛り上がってる
トシミは今日、俺が誘ったのに
なんとなく2人きりだと、気まずいような気がして。
「ハミルさん」
正直に言う、しかない
「いや、僕は初心者で。何回かやったことはあるんですけど、全然下手くそで。多分足手纏いになると思います」
いいんだ、これでいい
天秤はゴメンナサイ側に傾けた
ヨロシクオネガイシマス側の天秤は浮皿が立っている
彼女も大人だから、深追いはしてこないだろう
彼女が一言二言漏らした後
(僕はやめておきます)
これで全てが決着する
「初心者でも上手じゃなくても全然大丈夫です。皆さん、初めは初心者ですし。それに見たところ、ハミルさん卓球顔ですし上達すると思います」
顔が紅潮した
ちょっと待て、卓球顔?なんだそれは?そんな顔の種類があるのか?初めて聞いたし、言われたぞ
あまりに強烈な回転ドライブを打ち込まれて、微動だにできなかった
「取り敢えず、やってみましょう」

トシミは上手かった。コルクさんもやはり上手だったが、トシミの方が少し優勢なように見えた
俺は、
「ハミルさん、上手ですよ。全然いけます」
勧誘商法マニュアルの2ページあたりに載ってそうなセリフだなと思った
「さすが卓球顔だな」
トシミがニヤついてる
卓球顔の正解の面構えがわからなかった
卓球顔だから上達すると言う、前代未聞の空玉に撃たれて、俺は卓球クラブに入会する
テーブルテニスHの門構えには小さな花壇があると言う
コルクは先日オダマキの花の種を蒔いたと言う
2月に種を播いて5月頃に開花する
苧環の花にある”勝利”の験を担いでいると言う
特に紫のオダマキに勝の念が込められている

5月31日(土)及び6月1日(日)に花美留市卓球大会が開催される
経験者のトシミとTABLE TENNIS FACEのハミルが加わって出場エントリーが可能となった為、その大会を目標として練習に取り組む
そういえばハミルENにも卓球部があったっけ
千七菜どうしてるかな
あれから気まずくなって、3ヶ月は会っていない
・・・・

俺はまだ。。。
バレンタインの日
「付き合ってください、チナナ」
「バコタ、宜しくお願いします」
俺と奴の天秤で、俺は沈んだ
俺が持ち上げてやった逆側の天秤の皿でガッツポーズ
俺の恋人を奪った男は、
ハミルEN卓球部のエース、バコタだった
。。。この事実を知らない

FLOWER402.ラナンキュラス
ミステリH 18
熊と鰐は観覧車に乗っていた
コルクは観覧車が大好物だった
卓球を通じて関係を深めたハミルとその空間を共有していた
花美留市に聳える丘の遊園地
ゴンドラからアクリル板を通して見下ろす街
鰐のコルクはこの景色が好きだった
アクリルがフィルターになって微かに惚ける
この僅かな霞が現実世界を夢物語へ誘なう
ゴンドラは誰が突入して来ることも必ず無いし、1人で乗る観覧車も私にとってはご馳走だった
長いマスカラに鋭い歯
刃のような歯をカムフラージュするためにマスカラを派手に飾って、目線を口元から遠ざける
先鋭な歯牙に視線が集中されることを嫌った
人間社会の中、特徴的な容姿を持つ私にとって観覧車は特別だった
一人になれる。
空に密閉されたゴンドラ、アクリルの壁
水中生物を先祖とする私にとって、空の空間は夢そのものだった
人間世界に疲れた鱗を空で癒す

正面に座る熊のハミルを見つめる
きっと彼も同じような苦しみを抱えているんだろう
熊のぬいぐるみ
縫い包みにしてしまえばカワイイその存在も、実際にソイツと遭遇してしまえば、銃を手にしていれば、訓練を受けていない、か弱い小娘でさえ、その筒を構え、引金に指をかけ。トリガー
キックス
先祖の特徴が色濃く出てしまった人間をキックスと呼んで差別する
熊系人のハミル
鰐系人の私、コルク
獅子系人のトシミもそうだ
不図、
この特別は日本が発祥の地で日本原人とも
イエローモンキーとか、
別に俺はいいが
男がどうとか女がどうとか、ジェンダーがどうとか、
ジェンダーレスがどうとか、元々ジェンダーみたいな差別的用語を作り上げて、ジェンダーレスを謳って私達は素晴らしい運動をしてます、みたいに
blackとかwhiteとか
manとかwoman
yellow monkey
べつに、な
・・・・



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