378.シオン 紫苑 10/16 誕生花
ミステリH 11
あの七文字の告白から3ヶ月が経った

今日は7回目のデートだ
昭和区にあるチナナのアパートからほど近い喫茶店で15:00に待合せした
フラワーショップでコスモスを中心とした花束を、あまり大袈裟にならない程度に包んでもらった
名城公園駅で地下鉄に乗る
名城線に運ばれて上前津駅で鶴舞線に乗り換えた
降車する御器所(ごきそ)駅に向かう車内のガラスに映る顔を見つめた
改めて決意を固める
・・・・
御器所駅を降車した
北改札を出て3番出口から地上へ上がる
東へ向かって程なく待ち合わせの喫茶店に着いた
店に入るとチナナは既にテーブルに着いていて、その前にはティーカップが置かれていた
店員に待合せの旨を指で伝えて席に着いた
冷やを持ってきた店員にアイスコーヒーを注文した
「花美留」
「千七菜」
花束を渡した
女性は喜びよりも驚きの表情を浮かべて、両手で受け取った
視線を落とし花を見つめると驚きが喜びの笑みへと移り変わった
しばらく近況などを会話して
花美留は決意の内心を明かした
「チナナ」
「うん」
「あのさ、ハミルENのことなんだけど」
「うん」
「抜けてくれないか」
花美留はハミルENの存在を嫌悪した
結婚を否定して、婚姻制度を否定する、そして血縁ではなく金で繋ぐことを目指したハミルEN
そんな阿呆の着想、オウチゴッコをしている其処が許せなくなった
実際には、千七菜との交際が始まってから疎ましくなった
その前からチナナを始めフレンドといえる人間もいたから、さしたる感情はなかった
しかし、チナナとの交際が始まり思い描く将来の絵図が見せる風景は、家庭だった。普通の家庭だった
彼女がハミルENを抜けてさえくれれば、その目標に障害は消滅する
「いやです」
「どうして!」
「ごめんなさい、私はハミルENが好きなんです」
「抜けた方がいい。自由なんだろ」
「抜けるのは自由だよ。でも私は抜けない」
「結婚できないじゃないか!」
苛立ちの声と台詞の儚さが響いて
数人の客と店員の目玉の注目を集めてしまった
「ごめん、花美留。それが嫌なら私たち」
「待て、言わないで」
「・・・・」
花美留も千七菜も声を下げて注意深く話し始めた
「そんなにいいのかい。ハミルENは。血縁じゃなくてお金で繋がってるんだろ。生活できているのかい」
「今はすごく稼ぐ人もいるから、割と」
「全員の稼ぎを合わせて同額配分されるんだろ。どれくらい」
「今は40万円くらい」
「うん」
「でもね、私たちは家族だから。40人の大人と6人の子供がいて、勿論高齢者も。今の世の中でそんなに大勢の人達と家族と呼べる関係になれないでしょ。だから私は」
「そんなこと、普通じゃないよ」
「分かってる。でもね、どう思う。結婚って」
「そんなの当然の家族形態だから」
「本当に、当然なの?」
「えっ」
キョトンとする花美留と、眼差しに力が籠る千七菜が続ける
「区別してる。近頃の世の中は、男だからとか女だからとか、そういうのは無くしていきましょうって方向性になってるわよね。でも、既婚とか独身とかは無くしましょうとはならないのは、、、おかしいでしょ」
「おかしい?でも、なんて呼べばいいんだい。それ以外に結婚してるか、してないかを判別できる呼び方なんてないじゃないか」
「だから、結婚自体が必要ないっていう。ことなんだけど」
「やめてくれよ、俺は君と」
男は想いの丈を仄めかすニュアンスを発したが、女は論じた
「平等なの。少なくとも私達は。全員が同じ配分の金額を毎月受け取るから。食事にしたって男だから奢るとか女だからとかそういうのはなくて、男も女も全員割り勘だし」
「そりゃ収入が同じなら、そうだろうけど」
「配分っていうの。私たちは。くばるわける」
「いいよ、そんなのどっちでも」
「それこそ男とか女とかいうのは埋まるし、子供もみんなで協力して育てる。介護もみんなで受け持つ」
「一緒に住んでないんだろ」
「住む場所は自由だし」
「家族と言えるのかな?」
「おかね。お金で繋いだ私たちには家族の意識がある。同額で貧富の差が完全にないの。相手の財布の事情を完全に把握してるっていうのが大きいと思う。多くの人は近くに住んでいるし、困った時は助け合えるし」
「うーん」
「考えてみて。ねぇ、花美留。子育てにしても、特に介護ね。1対1で介護するのは大変なの。でもね、比率は同じでも10対10ならどう?その方が介護する方もされる方も負担が減るの。昭和の初期中期に多くの子供が生まれたのは、家族の形態が大きくてみんなで支え合っていたからでしょ。今は家族も縮小して支え合いの範囲も狭くなっているでしょ」
「うーん、どうかな。でも普通の家族でも助け合うし」
「隣の家族が困ってたら助ける?」
「えっ」
「できるの。個人を尊重しながら大きな家族を築いて支え合う」
「千七菜、正直言っていいかい」
「うん」
「気味悪い」
「うん、そう」
帰るね
花美留はハミルENが好きではない
何故、俺と同じ名前なんだ
偶然なのか
怪訝の皺を眉間に寄せながら、うーんうーんと蠢く
俺は普通に千七菜と・
お花ありがとう。

#HAMIRU
#チナナ
#ミステリH


STONE3.オパール 10月誕生石
ミステリH 12
(代表者と話をさせてほしい)
数日悩んだ末にメッセージを送った
花美留は家に帰ってしばらく動けなかった
着替える気力もなくへたり込んだ
千七菜につい声を荒げてしまった
彼女がハミルENを抜けないというものだから・
このままでは結婚に向けて進めないし、何とかしないといけない
“きっと彼女は洗脳されているんだ”
花美留が導いた解答だった

きっと親玉のような奴がいて、結婚不可について詐欺師の手口のように巧妙に説いて、恰も真っ当な思想のようにマインドコントロールしているに違いない
悪の権化を叩かないと駄目だ
そいつを叩かないとチナナをいくら説得したところで、再び言いくるめられてしまえば振り出しに戻ってしまう
俺は千七菜を洗脳から救い、
“チャペルでウェディングドレスを衣した彼女と愛の誓いを立てるんだ”
そのためには、見知らぬ支配者を退治するしかない
この頃転職を考えていたが、タクシードライバーとして生涯を生き抜くことを決断した
あとは彼女との家庭を築けば、俺は万感極まり人生の素晴らしさを大空の下で叫ぶのだろう
ありがとう
(花美留、この前はごめんなさい。ハミルENには代表者はいないんだけど、概念を正確に把握している人でクルムっていう人間がいて。彼なら来週の水曜日の夜なら大丈夫みたいだけど)
(ありがとう。話して見たい。宜しくお願いします)
(はい、また連絡します)
その後、チナナから連絡を受けて10月30日(水)の19:00に千種駅で待合せすることになった
チナナも来るという
クルム
おそらくあの男だ
彼とは2回ほど顔を合わせたことがある
2,3年程前に参加したバーベキュー
あの時はハミルENの人間も多くいて、彼とは挨拶くらいは交わした筈だ
もう一回はタスイに”好きです”のラブレターを相談したカフェの出掛けに遭遇した
そういえばあのラブレターはどうなった
確かここに、
ベットフレームの頭部側の小さな抽斗を開けて紙を確認した
広げて文字を見る気にはならなかった。
#HAMIRU
#チナナ
#ミステリH
#20241025





flower390.カトレア
ミステリH 14
2024/12/20

あの10月末のハミルENの面々との話合いからぎこちなくなった
世間はクリスマスムードで盛り上がっているのに、俺の心は白けたままにホワイトクリスマスで消沈していた
千七菜ともう一度やり直すためにクリスマスプレゼントでも用意しようと思ったが、ジュエリーショップの前で右往左往していまい足が踏み出せなかった
あの時の話合いで彼女は俺の味方をしなかった
その現実が俺の心を傷つけた
千七菜の波風立たせずの微笑は俺ではなく、ハミルENという集合体を選択したという決定を俺に痛感させた
俺の熱情を鼻で一笑されたような気さえしてしまって、連絡することさえ怖くなりそのまま日常をやり過ごした
用意しても渡せないかもしれないプレゼントを用意することに躊躇いながら、主体性なく店員の微笑みと歩み寄りが俺の逃げ道を用意した
嫌がる背中をクリスマスが無理矢理に押してくるような気がして滅入った
幸せの押売りみたいなクリスマスに少しばかり乗ってやって、財布を開きケーキやらチキンやらを買って押売りを一噛みしてやり過ごすのが妥当だと決定した
家で嘘みたいな体育座りをしてたら居ても立っても居られなくなって外に出た
PM7:40
いつもの名城公園駅に向かって名城線、平屋大通駅で降りて繁華街に向かった
酒を煽ろうと思い歩くと人混みの中で肩がぶつかる
気が立っていたし言葉には発さなかったが、男を睨みつけた
男も睨み返し口論になった
手を出しちまった
相手の男も俺を殴り返し揉み合った
数人の漢たちが俺たちを剥がして押さえつけた
涙が出そうだった
警官が駆け寄ってきて交番に連れて行かれた
暴行罪と傷害罪の説明を聞かされた後、和解を促された
互いに和解に応じて留置などは免れ帰宅を促された
俺に朧げを与えてくれたのは酒ではなくて拳だった
栄駅に向かって地下への階段を降りるところで、俺と同じ種の目をした一刻前の相手の男に再び出会った
目が合ったところで向こうから謝罪を入れてきた
俺から手を出したのに”申し訳なかった”
相手の男は”売られた喧嘩は買わなければいけない”
不思議な感覚だった
同じ匂いがするという動物的感が働いて連絡先の交換を申し出た
男は心良く応じてくれた
メッセージアプリの類ではなく、電話番号のみを交換した
男はトシミという名だった
トシミは南の金山駅に帰って、俺は北の名城公園駅に帰る
別れを告げた
喧嘩した男と連絡先を交換するなんて十代の不良漫画を思い出したら少し笑えた
名城線の車内で、地下鉄で、
クリスマスの華やかさから逃れられる深さが心を安めた
俺たちの居場所はまだまだ地下だから、
程よく椅子に座れたし
目を瞑り列車が揺れている
目を閉じても感じる冷たさが朧げを覚ました
コンクリートのカーテンの漆黒が俺を包んでいた
#HAMIRU
#ハミル
#トシミ
#ミステリH



ミステリ15
昨年の暮れだった
クリスマスの数日前やり切れない感情を抱えたまま肩を当てた程度で揉み合いになっちまった相手トシミ、
今日は彼と俺の家で呑むことになった
あの夜連絡先を交換して1ヶ月ぶりの再会だった
金山駅から名城線に揺られて俺の住む名城公園まで男は来た
駅で待合せをして、奴を自宅に迎え入れた
4階建てアパートの4階の部屋で男二人
酉の刻から戌の刻に移ろうかという頃だった
俺は昨日からの夜勤明けで睡眠を取って申の刻に目を覚まして調理をした
ニラや玉葱に豚肉を材料としてチヂミなんかを作って一丁前に客人を饗す準備を済ましていた
「チヂミ作ったんだ」
「へえ、ハミル料理するのか」
「いや、簡単にできるのな」
「チヂミは手間かかるだろ」
「まあ、座ってくれよ」
ビールで乾杯して焼酎に進めて数杯飲った
トシミはメビウスの電子タバコを喫って、俺はラッキーストライクの電子タバコを吸った
「なあハミル、いいか」
「?」
トシミが何かしら箱をダウンジャケットから取り出して右手で揺らしていた
「ああ、紙か」
「酒呑むとな。たまに欲しくなるんだよ」
「いいよ。俺ももらっていいかい」
「ああ、いいぜ」
キャメルの紙タバコを2人で咥えた
久しぶりに吸った紙タバコに細胞が活性化したような感覚を覚えた
「はは、クラクラすんな」
「紙は吸ってないか」
「ああ、かなり久々だな」
「そうか」
「うめぇ」
しばらく酒を交わしながら、男同士のくだらない話で屈託のない時間を過ごした
「トシミは仕事は何してんだ」
「俺は造園師だ」
「造園師。あれか庭作ったりするのか」
「そうだな。庭園だけじゃなくて公園とかな。企業からの依頼も多い」
「へえ、すごいな。独立してやってるのか」
「いや、俺は雇われだ。そういうことも考えないでもないけどな」
「そうか。羨ましいな」
「いや」
白い煙が立ち昇り香ばしさを味わった
齢40を過ぎて全くのプライベートで親しいFRIENDができるとは思わなかった
こうして友と歓楽の時を過ごすことができるなら、それも悪くはないかなと、
千七菜との行く末ばかりに気を取られて視界が狭まっていたのかもしれない
価値観の納め所なんてどう変わるかわからない
何もかも朧気にしちまってただ楽しめりゃ良い、刹那的で短絡的な思考だが脳に憩いを与えてやれるかもしれねえ
「よし」
「どうしたトシミ」
「ちょっと酒作るわ」
「ああ、それ」
「最近ちょっとな」
トシミが手ぶらじゃなんだからと持ってきたドライ・ジンとドライ・ベルモット、雑にオリーブをカクテルピンに突いた、
俺はグラスを少し上げて礼を告げた
・
「なあトシミ、ハミルENって知ってるか」
「なんだ、そりゃ」
「血縁や婚姻ではない形態で家族を築いている」
「なんだと」
「おかしな話だろ」
「・・・・」
「なあ、」
「・・詳しく聞かせてくれ」
トシミが灰皿に吸殻を増やして、俺の目を見た
俺はマティーニを飲み干して、目を反らして、オリーブを口にして声を塞いだ

#HAMIRU
#ハミル
#トシミ
#ミステリH
#20250124





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